世界の見え方と気分(mood)

精神医学

抑鬱状態の方はよく、「生きがいがない」「生きる価値がない」「生きる意味・目的が分からない」と仰る。

その言葉には、「自分は人生に生きる意味を見出すことができないから抑うつとなっていて、生きる意味をもし見出すことができたら気分が晴れ、抑うつから回復するだろう」という考えが背景にあることが多い。

自分の人生経験・精神科臨床経験からすると、この考えは誤りである。

抑うつとは無縁の、明るく楽しく生きている人たちは、生きる意味が分かっているから気分が良いのではなく、もともと気分が良いから日々の様々なことに楽しさを感じ、そもそも生きる意味など考えない、もしくは、楽しさゆえ様々なことに意義を見出すことができ、もし生きる意味はなんですかと聞かれれば、仕事や家族、趣味の面白さや愛を語る。

つまり、世界の見え方によって気分が決まるのではなく、その時の気分が世界の見え方を決めるのである。

人の頭は器用に、その時の気分に相応しい情報を世界からかき集め、その気分に相応しい映画を作り上げ、私たちに見せてくる。情報の取捨選択や意味付けは、気分が操る頭の働きによってなされる。

では、何が気分を決めるのか。

それは外的環境と内的環境が意識と無意識の世界で相互作用した結果である。

目の前にアイスクリームがあったり、好きな人がいたり、布団が気持ちよかったり、仕事が大変だったり、などといった外的環境と、美味しいご飯を食べて満たされたり、腹痛でのたうち回ったり、などといった内的環境が、意識できるものとそうでないもの(=無意識)も含めた相互作用により、その時の気分を決める。気分を決めるこれらの環境の中には、気分の結果であるはずの世界の見え方が一部含まれていて、「世界の様子 → 気分 → 世界の様子 → 気分 → 世界の様子 →・・・」というループを形成するが、それはごく一部であって、実際には意識にのぼらない内臓感覚などの環境が気分に与える影響は大きい。

循環気質と呼ばれる人たちは、気分に影響を与える内的環境において、周期的に気分を上げたり下げたりする要素を生まれながらに持っており、本人の意思とは関係ないところで、気分が定期的に上がったり下がったりを繰り返す。それによって世界の様子も変わって見えるが、変わるのは世界ではなく自分の方である。

話がややこしくなったため簡単にまとめると、生きがいがないから抑うつになったと思っている患者さんの正しい治療は、生きがいを探すことではなく、気分を上げる環境を整えることである。それは人によって違うから探すべきだが、一般的に心身に良いと言われていること(安全な環境、健康な食事、運動、人との関わり、瞑想など)によって少なからず気分は改善するため、まず取り組むべきである。このような提案に対し、「生きがいが見つからない限り他に何をやっても抑うつは晴れない」と言い返されることもあるが、多くの場合それは誤った考えで、上記の環境調整である程度抑うつは改善する。

コメント